コクテイルのこと(2009年6月1日)

今回は、私が生まれ育ち、今も住んでいる高円寺(東京都杉並区)という街に関する話をします。
この街には古本屋さんが多く、人文・社会科学書ならば都丸書店というお店が有名なのですが、
ひとつとても面白いお店がありますのでご紹介します。
それは古本酒場・コクテイルというお店です。
ここは古本屋であり、居酒屋でもあるという不思議なお店。お客さんには、同業の古本屋さんをはじめ、
ライター・編集者・図書館に勤める人など、本に関わっている人はもちろん、ミュージシャンや
音曲師の方(柳家紫文師匠)、それに一人で来られる女性客や普通のカップルなど実に様々な人がいます。
手作りのカウンター2つとテーブルが1個だけのお店で、そんなに大きくはないのですが、
席の後ろには古本がズラリと並ぶ、コアなファンが多いお店です(店内ではそれらの古本も売っており、
ときにはミュージシャンの人のライブやトークショーといったイベントもあります)。
お酒はもちろんですが、酒肴がおいしく、しかも安い(1品だいたい300円〜500円くらい)。
なかには文士料理というものがあり、私は啄木コロッケ・大正コロッケなんかが特に好きです(揚げ物ばかり
注文している・・・だから太るのか)。去年の夏頃から行くようになったのですが、お店の外見がレトロな感じで
中は薄暗く、最初は正直入りにくかったです。でも、一回行ってマスターの狩野俊さんと、
彼と一緒に働いているパートナーの西宮さんと仲良くなってしまうと、すっかり敷居が低くなって、
今では常連の末席くらいには加えてもらえているかな、というところです。
でも、飲んで騒ぎたい人には不向きで、大概の人は静かに飲みながら本を読んだり書きものをしたり、
マスターと話したりと、実に「まったり」としているお店なのです。
ちなみにマスターの狩野俊さんは『高円寺 古本酒場ものがたり』(晶文社、2008年)というエッセイを出版している
ライターでもあります。この本はコクテイルをなぜ、どのようにして立ち上げ、どんな苦労をし、どんな人と出会って
現在に至っているのかを書いているのですが、マスターの人柄がよく分かる、とても良い本です。
ぜひ読んでみてください。ちなみにこの本は中川六平さんという名編集者がいて初めて世の中にでたということ
があり、編集者の力というものの大切さを、読んでいてまざまざと感じさせてもらいました。
なお、この本はネット書店のアマゾンでも買えますよ。
私も、このお店があること自体は前から知っていたものの、さっき書いたように入りにくかったので、
この本を読んでどんな店なのかを知り、実際に行くことにしたというわけなのです。
このような古本酒場という不思議なお店が存在していること自体、高円寺という街の文化のすばらしさだと思うので、
皮相な都市再開発の波にのまれることなく、頑張っていってほしいです。
本当にここ最近の高円寺再開発は最悪で、JR高円寺駅に接続させて巨大なホテルを建設したりして
ます(駅のホームの前に立ちふさがるように建っている高層ホテルの姿は巨大な墓石のようで異様です)。
高円寺という街には、昔ながらの人情とアングラで気だるい雰囲気が似合うので、機能的かつ洗練された都市を
目指されても困ります。むしろ、進んで時代に取り残されるような文化性こそがこの街の個性であり、
誇りだと思っているわけです。
こんな駄文をデジタルの媒体で流してはいても、本という前時代的な媒体にあくまでもこだわり続ける私としては、
高円寺は「本の街」であり、インディーズ系の音楽やアングラ演劇といった、貧乏だけどメジャーに取り込まれるのを
潔しとしない文化のサンクチュアリであり続けてほしいと思っています。

と、こういう事を書いても高円寺のことを知らない方には何のことかさっぱりでしょうが、
とにかく高円寺に来られたときには、コクテイルに是非よってみてください。
お店のホームページは
http://koenji-cocktail.com/
です。
マスターは正直、特別に愛想がいいわけではありませんし(こんな事を書いて、狩野さんゴメンね)、
昔は店を開けるのが嫌になって家に引きこもっていたこともあるというくらい、商売気のない人です。
でも、さりげない気配りをされる人で、居心地が良く、そういうところがみんな好きで通っているんだと思います。
私自身も商売にはつくづく向いてない性分だと思っているので、こういう人に共感するところが大なのです。
いくら好きで始めた商売でも、嫌になったり落ち込んだりはするもの。それでも続けているのは
それがやっぱり好きだからに違いありません。

とにかく、肩の力を抜いて飲みたいときに最適なお店です。
お店の定休日は毎週火曜日で、営業時間は19時〜25時です。
ただ、イベントの日もあるので、ホームページでスケジュールを確認してから行かれた方がよいでしょう。
私はまた今週末にでも行こうかと思ってます。